日中はあまり暖房を使わなくなってきた
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、ここ最近、学生時代と同じように
眠りが浅くて困っています。
基本的に、一度眠っても2時間程度で
一度目が覚めてしまいますし、
遂には、雨音で目が覚めてしまうくらいです。
一向に熟睡できません。
それに加えて、元々の寝つきの悪さ。
ここ最近の睡眠時間の合計が以前に比べて
だいぶ少ないように思います。
というわけで、いつものを更新しようと思うのですが、
前回でおおよその話は終わりました。
後は、後日談が少しある程度です。
一応、今回と次回の更新分で、すべての話を終える予定なので、
今しばらくお付き合いください。
それが終わったら、今度は新しいサイトでお会いしましょう。
新しいサイトの稼働予定は3月になる予定です。
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




エピローグ

 光姫と幸の拉致事件が解決して一月が立ったある日のこと。
 縁側でぼんやりとしながら、時々お茶を啜(すす)る明治に、幸が声を掛けてきた。
「アキ君。ぼんやりしてどうしたの?」
「いや、何だか平和だなって思いまして…」
「ああ、そうだよね」
 そういいながら、雲一つない青空を二人して見上げる。
 一月前に国の命運をかけた戦と、斑蜘蛛率いる野盗集団が襲撃してきたことが、まるで嘘だったかのように、のどかな空だった。
 鳶(とんび)が暢気(のんき)に空を飛ぶ様子を眺めながら、二人でお茶を啜る。
「「はぁぁ〜」」
 二人の間に沈黙が流れるが、それは気まずいものではなく、むしろ明治には心地いい沈黙だった。
 その沈黙は、幸が思い出したように声を上げたところで、破られた。
「そういえば、アキ君は、勉強とか訓練はいいの?」
 明治は軽く頷きながら、
「実は、一月前の戦のあと、鉦定さんから勉強は終了って言われたんです。剣術の稽古も、一通り習ったから、後は自分で訓練しろって、お館様が」
「そうなんだ」
 自分で聞いておいて、あまり関心がないような返事をする幸に、明治は思わず苦笑しながら、幸を見た。
 幸は何かを考えるようにしていたが、突然、「そうだ」と声を上げながら、明治に向き直った。
「それじゃあ、アキ君はお昼食べた後は暇?」
 期待するように、きらきらと目を輝かせながら、にじり寄る幸に、明治は身体を仰け反らせながら、こくこくと頷いた。
 幸は、一層顔を輝かせながら、嬉しそうに言った。
「じゃあ、お昼食べたら、町にでて買い物しようよ」
 あまりにも嬉しそうに幸が提案するので、明治は断ることもできずに、「了解」と返事をすることにした。
 返事を聞いた幸が、嬉しそうに去っていくのを見送った明治は、軽く背筋を伸ばすと、隆宗の執務室へと足を向けた。
「お館様」
 部屋の外から隆宗に声を掛けてみたが、返事がない。
「お館様?」
 もう一度声を掛けるが、やはり返事がなかった。
「(おかしいな。確かにこの時間帯はここにいるはずなのに…)」
 明治は首を傾げながらも、もしかしたら執務に集中して聞こえないのかもしれないと思い、そっと部屋の中を覗いてみた。
 すると、確かに隆宗は部屋の中にいた。
 しかし、隆宗はうつらうつらと居眠りをしていた。
 明治は呆れつつも、隆宗を起こそうと声を掛ける。
「お館様、起きてください」
 隆宗の身体を揺すりつつ声を掛けるが、一向に起きる気配がない。
 段々じれてきた明治が、隆宗を大きく揺さぶるが、相変わらず隆宗は眼を覚まさなかった。
 まさか隆宗に何かあったのではと、明治が不安になっていると、隆宗がむにゃむにゃと口を動かした。
「ふ、ふはははは」
 隆宗が突然高笑いを始めたので、明治は思わず後ずさりをしてしまった。
 明治が驚きながらも、隆宗の様子を見ていると、
「ふっふっふ。この紋所が眼に…」
「とっとと起きろー!!」
 いつの間にか現れた鉦定が、何かを言いかけた隆宗を蹴り飛ばした。
 ゴロゴロと転がった隆宗が、むくりと起き上がりながら、文句を言った。
「むっ。いきなり何をする!」
「やかましい!何寝てるんだよ!ああん!」
 隆宗の文句をバッサリ切り捨てて、鉦定が睨みつける。普段は温厚で、主人には敬語をきちんと使う鉦定が、怒りのあまり、ヤンキーのような口調になっていた。
「まったく、居眠りどころか、熟睡しやがって!」
 いつの間にか正座で説教されていた隆宗が、遠慮がちに言った。
「あのぉ、鉦定?一応俺は、主人なんだけど…?」
「うっさい!黙れ!」
 しかし、鉦定の怒りが限界を超えてしまっていたため、一喝されてしまい、隆宗は瞬としてしまった。
 もはや主従関係など無視された光景に、明治は苦笑いしながら、こっそりと執務室を出て行った。
 部屋を出た明治が、さてどうしようかと、廊下をぶらぶらとしていると、ばったりと光姫に出会った。
「あら明治さん。こんなところでどうしたんですか?」
 やんわりと笑いながら訊いてきた光姫に、明治は事情を説明した。
「別に大したことではないんですけど、ちょっとお館様にお願いがありまして。それで、執務室を訪ねたら、お館様が寝ていて、鉦定さんが説教しているってことです」
「あらあら。困った人ね」
 そういいながらも、あまり困ったように見えないどころか、むしろどこか楽しげにさえ見えてしまうのは、隆宗と光姫の仲がかなりいい証拠だろう。
 明治がそんな感想を抱いていると、光姫がずいっと顔を寄せてきた。
「それで?」
「へ?」
「それで?あの人にお願いって何なのですか?」
 光姫がぐいぐいと顔を近づけてくるので、明治は身体を仰け反らせながら答える。
「え、えっと。実は昼ご飯を食べた後、幸さんと町に買い物に行くことになりまして。それで、その、できればお小遣いを少々もら…え…たら…」
 説明しながら、明治は内心後悔していた。なぜなら、説明の途中から、光姫がこれ以上ないくらい、にやにやと笑っていたからだ。
 そして、明治の説明が終わると、
「まあ、まあ、まあまあまあ」
 明治の手を取りながら、これ以上ないくらい嬉しそうにしていた。
「やっと、明治さんも幸さんと逢瀬をするようになったのですね」
「へ?いや、あの、その…」
「これで、二人が祝言を上げるのも時間の問題ですわね」
 光姫の後ろに控えていた女中たちも、光姫に同意するように頷いていた。
 明治が言い訳もできずにおろおろしていると、
「そういうことでしたら、私にお任せなさい」
 光姫は、そばにいた女中の一人に命じて、一貫(いっかん)文(もん)を持ってこさせた。ちなみにこの一貫文は米一石(千合分)に相当する額である。
 明治は慌てて断った。
「ちょ、ちょっと待ってください。さすがに一貫文は貰いすぎです!」
「そうかしら?着物とか装飾品とか買ってあげれば?」
「それでも多すぎです!せいぜい二十文くらいで十分です!」
「まあまあ、何があるか分からないから、とりあえず持っていきなさい」
 そういわれて、結局明治は一貫文を受け取ることになってしまった。
「重っ」
 受け取った明治が思わずつぶやいてしまったが、これは仕方のないことだった。
 何せ、この一貫文。文字通り重量が一貫(約三・七五キロ)もあるのだ。持ち運ぶにしても不便なことこの上ない。
 そんな明治の心情を知ってか知らずか、光姫の話は続いた。
「いいですこと?明治さん。女の子は皆甘いものが大好きです。ですから、最初は甘味処に連れて行きなさい。その後は、着物を見たり、装飾品を見たりして、最後に二人で夕焼けを眺めればばっちりですわ」
 その後も延々と話が続きそうだと感じた明治は、わざとらしく咳払いをして、慌てたように言った。
「すいません!そろそろご飯を食べて、準備しないといけないので!失礼します!」
 勢いよく頭を下げると、明治はそのまま走り去っていった。
 それを呆然としながら見送った光姫は、拗ねたように頬を膨らませた。
「まあ、まだ教えておきたいことがあったのに…」
 光姫のその様子が、あまりに幼く見えたので、後ろに控えていた女中たちがくすくすと忍び笑いをしたのだった。