いつものように朝起きるのがつらい
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、ここ最近、ずっと私の脳内で
リピートされ続けている局があります。
そろそろ私の精神がおかしくなりそうな感じです。
い、いや、別にその曲が嫌いとかそういうわけではないです。
むしろ、結構心に響くというか、そんな感じです。
ただ、いくらなんでも脳内で無限ループする状況が
如何ともしがたいわけです。
とりあえず、聞いてみてください。





というわけで、いつものあれを更新します。
今回で、一つの決着がつきます。
どうぞ、お付き合いください。
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




 そのころ、山辺軍の本陣では慌ただしく伝令が出入りして、状況を報告していた。
「現在、敵軍は予定通り奇襲部隊を追跡しながら、進軍しております!現在、予定箇所より距離およそ十八町(じゅうはちちょう)(およそ二キロメートル)です!」
 伝令は連絡を伝え終えると、再び情報収集に出て行った。
「例の道までもうすぐか…」
 地図上に配置された駒を動かしながら、隆宗がぽつりと呟いた。
 明治は、徐々に迫りくる敵軍に、緊張を隠せず、恐怖で体が震えていた。
 それを見た隆宗が、優しく声を掛けた。
「怖いか?」
「…はい。お館様、本当に僕に戦えるでしょうか…」
 明治は縋るように隆宗に視線を向けた。
 隆宗は、考えるように遠くを見つめると、
「そうだな、最初は誰だって怖いさ。俺だって初陣の時は怖かった。でもな、明治、怖がってもいいけど、大切なのはいざっていう時に、躊躇わないことだ。そうしないと、戦場では生き残れない」
「躊躇わない…ですか?」
「ああ。相手は待ってはくれない。だから敵と対峙したら、刀を抜いて迷わずに斬れ。それまでは、好きなだけ迷ったり、悩んだりしてもいいけどな」
 隆宗の言葉を、明治は刻み付けるように、頭の中で繰り返した。
 そこへ、鉦定が明治の頭に手を置きながら、おどけた。
「ま、要は戦場で死にたくなかったら、必死になれってことだ」
 鉦定の、あまりに軽い言い方に、明治は思わず苦笑し、その場の重く張りつめた空気も少しだけ軽くなった。
 しかし、伝令が報告に来たことで、空気は再び緊張が走った。
「報告します!現在、奇襲部隊が「道」を通過しました!敵軍も間もなく到達します!」
 伝令の報告を聞いた全員が、一斉に隆宗に注目すると、隆宗は手にしていた軍配を高く掲げた。
「いよいよだ!全員、配置に付け!」
 隆宗の号令のもと、全員が自分の持ち場へと向かった。
 明治と、鉦定も担当の部隊に合流して、石原根軍が来るのを待っていた。
 そして、とうとうその時が来た。
―どぉおおん!
 まるで、花火のような腹の底に響く重たい音が聞こえた。
 森の木々が邪魔で見ることはできないが、恐らく道に仕掛けられた罠が作動したのだろうことは、想像に難くなかった。
 そして、それからさほど時間をおかずに、森の静寂を破るように、ほら貝の音が響き渡った。
 短めに三回。
 あらかじめ決められた、予定通り、森に敵の先頭集団が入り込んだことを知らせる、奇襲部隊からの合図だった。
 その合図のすぐ後に、悲鳴や怒号、刀を打ち合わせる音などが響き渡り始めた。
 明治は、緊張した顔で、敵兵が来るのをじっと待っていた。
 そして、ついに明治の部隊のところへ、敵兵が現れた。
その瞬間、仕掛けた罠が作動し、左右から巨大な丸太が飛んできて、敵兵たちを薙ぎ払う。
 しかし、運よく罠から逃れた兵士や、後から遅れてきた兵士たちが、明治たちの部隊に襲い掛かってきた。
 鉦定たちは、刀を抜いて敵の迎撃をするが、明治は身体が固まってしまって、動くことができずにいた。
「明治!刀を抜け!」
 鉦定の怒声に、はっとした明治は、のろのろと自分の刀に手を掛けたが、手が震えているため、刀を抜けずにいた。
 鉦定と斬りあっていた敵兵が、一瞬の隙をついて鉦定を抜けると、明治に接近した。
「隙あり!」
 刀を大上段に振り上げて、敵兵が明治を切り殺そうとする。
 瞬間、明治の脳裏に、親友の矢矧(やはぎ)が殺された時のことが蘇り、自分に迫ってくる敵兵の姿に、矢矧を殺した斑(むら)蜘蛛(ぐも)の姿が重なった途端、明治の視界が真っ赤に染まった。
 明治は、無意識のまま、相手の刃が届くよりも早く刀を抜き放ち、そのまま斬りつけた。
「明治!」
 鉦定は、斬りあっていた敵兵を強引に切り伏せると、急いで明治へと駆け寄った。
「明治!しっかりしろ!」
 鉦定に二度声を掛けられて、ようやく意識が鮮明になってきた明治は、ゆっくりと自分の足元を見た。
 少し前に、自分を斬ろうとしていた敵兵は、今はうめき声をあげながら倒れていた。
 明治は眼を見開きながら、自分の刀に目を向けると、その刃は血に濡れて、未だにパタパタと血を滴らせていた。
 それを見た瞬間、自分の手に嫌な感触が蘇ってきた明治は、刀を落とすと、自分が今戦場にいることも忘れて、その場に蹲り、胃液を吐いた。
「明治を守れ!」
 鉦定の命令で、部隊の兵士たちが明治を囲むように守りながら、襲いくる敵兵を迎撃した。
 刀を打ち合わせる音や、罠が人を薙ぎ払う音などが森中に響く中、明治は何もでなくなるまで吐き続けた。
 やがて、敵兵の迎撃がひと段落したころになって、ようやく明治はのろのろと立ち上がった。
 刀に付いた血を拭い終えた鉦定が、心配そうに明治を覗き込む。
「大丈夫か?明治」
 明治は顔を蒼白にさせながらも、どうにか頷いた。
「すいません。部隊長なのに情けないですよね…」
 今にも泣きだしそうな顔で謝る明治を、鉦定は優しく慰めた。
「初めて人を斬ったんだ。無理もない。それに初めての戦でこれだけの作戦を発案して、さらには、初めての実戦であれだけ動ければ上出来だ」
 鉦定に褒められて嬉しかったのか、明治の顔色が少しだけよくなった。
 しかし、そんな空気を壊すように、部隊の兵士が不満をぶつける。
「何で俺たちがこんな子供を守りながら戦わなくちゃいけないんだ!」
「そうだそうだ!」
 味方からの不満に、再び悲しそうに顔を伏せた明治を見て、鉦定は庇うように部下たちを一喝した。
「黙れ!貴様たちが初陣の時は、戦場の空気に飲まれて、碌に動けなかったことを忘れたか!それに、明治はこの作戦の立案と実行という、十分に立派な功績を立てている!貴様たちにそれができたのか!」
 鉦定に怒鳴られた兵士たちは、くやしそうな顔をしながらも一応は黙り込んだ。
 自分を庇ってくれた鉦定に、明治がお礼を言いかけた時だった。
―ブォォォォォォ!
 森の中に、戦の終了を告げるほら貝が轟き、それと同時に敵兵が敗走するのが見えた。
 それを見た兵士たちの間に喜びの声が上がり、戦を無事に乗り越えた喜びに浸った。
 鉦定と明治も、互いに顔を見合わせる。
「鉦定さん、終わったんですよね」
「ああ、詳しい状況は伝令からの報告待ちだが、終わったと考えていいだろう」
「僕たちの勝ち、でしょうか?」
「敵軍が敗走している以上、そう考えていいだろう」
 兵士たちの喜ぶ姿を見ながら、二人で話していると、どこからともなく、伝令が現れて、
「お館様からの伝令です!今回の戦は我が方の勝ち。状況を確認したいため、直ちに部隊をまとめ、本陣までお戻りください!」
 用件を伝え終わった伝令は、別の部隊に伝令を伝えに行った。
 明治は、伝令を見送った途端、その場にへたり込んでしまった。
「明治?大丈夫か?」
 鉦定が慌てて駆け寄ると、明治は誤魔化し笑いを浮かべた。
「すいません。急に緊張が解けたせいか、腰が抜けてしまいました」
 鉦定は苦笑すると、明治の手を引っ張って、強引に馬に乗せ、いまだに喜び合う兵士たちに命令を下した。
「お前たち!いつまでもそうしていないで、すぐに本陣に戻るぞ!」
 兵士たちは慌てて準備を整えると、先に行ってしまった隊長たちを追いかけはじめたのだった。
 やがて、山辺軍の全員が本陣に集結すると、天幕の中で、被害状況や敵軍の動向などの報告がされた。
「まず、今回の作戦ですが、概(おおむ)ね成功と言ってもいいでしょう。敵軍が道を通過した時に、戦力を三分割させて、先頭集団はその先の森で、中堅は道の上からの攻撃でそれぞれ撃破、残った部隊は撤退していきました。後続部隊に潜り込ませていた間者が、うまく敵軍を誘導できたようです」
「そうか。ご苦労だった」
 伝令に労いの言葉を掛けた隆宗は、作戦がうまくいったことに、ほっと胸を撫で下ろしながら、次の報告を聞いた。
「我が軍の被害状況ですが、死傷者がおよそ三百名、対して、敵軍の被害状況は、三千から三千五百程度と予想されます」
 被害状況を聞いて、武将たちがどよめいた。
 この被害の差は、地の利を活かし、かつ、罠や奇襲といった方法で戦ったからこその差であり、普通に正面からぶつかっていれば、山辺軍は壊滅していただろうことは想像に難くない。
「この戦で失われた命に、黙祷(もくとう)をささげよう」
 隆宗の言葉に、全員が黙って目を瞑り、冥福を祈った。
 そうして一分ほどが過ぎたころ、全員が黙祷を終えたことを確認した隆宗が、おもむろに宣言した。
「今回の戦は、これを以て終了とする!各自、退却の準備をせよ!」
 その言葉に、武将たちは三々五々、天幕を後にした。
 それからしばらくして、山辺軍は退却を始めたが、その道中の間に、明治はいつの間にか眠ってしまった。
 馬に乗ったまま眠ると、落馬してしまう危険があったので、鉦定はため息を吐くと、
「明治、そのまま寝ると、落馬するから、私の馬のほうに乗りなさい」
 明治は、寝惚け眼で鉦定を見ると、のそのそと馬を下りて、鉦定の馬に移った。
 鉦定は、明治が落ちないように後ろから支えながら、嘆息する。
 その様子を見ていた隆宗が、微笑ましいものを見るような顔で、鉦定に近づいた。
 それに気づいた鉦定が、隆宗に困ったような顔を向けた。
「まったく、子供ですね。これしきの事で、疲れて眠ってしまうなんて。明日からは、基礎体力の訓練もしないといけませんね」
 隆宗は明治が扱かれるのを想像して、可愛そうになったのか、明治をフォローする。
「初めての戦で、作戦を立案して実行したんだ。疲れるのも無理はなかろう」
「いや、甘やかしてはダメです。第一、お館様や奥方様は明治に甘すぎるんです。だから、教育係の私くらいは、厳しくします」
「…そうか、ほどほどにな」
 隆宗は明治に同情しながらも、そそくさと鉦定から離れたのだった。