紅葉もだいぶ落ち始めた
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、先日のことですが、
私の所持しているものがいろいろと壊れました。(泣
まずは、メガネの鼻パッド。
置いていたメガネを掛けようとしたら、
ちょっと頑丈な糸が引っかかっていたらしく、
引っ張った瞬間「ぱきっ」と折れてしまいました。
幸い、プラスチック製なので、瞬間接着剤で
事なきを得ました。
そして、二つ目はキーボードを斜めにするパーツ。
これは私の不手際で、キーボードを落としてしまい、
そのパーツが二つとも取れて、かつ、同じ個所が
同じくらい壊れたというハプニング。(泣
これもプラスチック製で、無事に瞬間接着剤で修復できました。
さすがは瞬間接着剤。
ビバ、瞬間接着剤。
というわけで、いつものを更新します。(笑
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




そんな微笑ましい光景に、少しの間、場の空気が和んだが、隆宗が空気を改めるように、軽く咳払いをして、巻物を床に広げた。
 バサッと気持ちよく広がった巻物から現れたのは、墨と筆で描かれた日本地図だった。
 しかし、明治の記憶にある日本地図とは、若干形が違う。明治の知っている日本地図は、現代に多く広まっている、細かな部分まで精緻に再現されている一般的なものだが、この巻物に描かれた日本の形は、大まかな形こそ同じではあるが、細かな部分が曖昧に描かれている。
そして、なにより大きな違いは、北海道や沖縄がどこにも描かれていない。更によく見れば、四十七の都道府県に分けられているのではなく、明らかにそれ以上の分割がされていた。そして、その中に、甲斐、信濃、近江、尾張三河など明治の知らない(・・・・)単語が書かれていた。
 記憶と違う地図に混乱している明治を余所に、隆宗が伊豆半島の南の辺りを指さした。
「ここが、今俺たちがいる場所、すなわち八洲の国だ。陸側の守りさえしっかりしてれば、後は海で囲まれた、守りやすい、いい国だ。」
「それだけじゃなくて、領民たちの気性も穏やかだし、海に接しているから、お魚も新鮮なまま食べることができますよ。私は、この人に嫁いでから、初めてあんなに新鮮なお魚を食べました。」
 明治は、隆宗のお国自慢と、光姫の暢気な補足など、まったく耳に入ってこなかった。
 全体の形は、明治の知る日本と同じなのに、書かれている内容が違う地図。そこから、導き出された結論を明治は、震える声で口にした。
「あの、山辺さん?」
 明治に声を掛けられて、隆宗は少し不思議そうにした。
「俺のことか?あまりそう呼ばれるのは慣れてないから、気楽に隆宗と呼んでくれ。」
「は、はあ。それじゃあ、隆宗さん。」
「何だ?安部殿。」
 今度は、明治が仰天した。
「あ、安部殿?」
「どうした?お主は安部ではなかったか?」
「いや、そうなんですけど、そう呼ばれるのは、僕も慣れていないので、僕も明治と呼んでください。」
「そうか。明治殿か。」
「で、できれば、その「殿」も外して、呼び捨てでお願いします。」
 例え、明治でなくとも、殿を付けて呼ばれることに慣れている人は、あまりいないだろう。
 しかし、隆宗にとっては殿を付けるほうが自然だったらしく、呼びにくそうに、口の中でもごもごとしていた。
 その様子を見ていた光姫が、呆れたようにため息を吐いて、助け舟をだした。
「とりあえず、慣れるまでは、呼び捨てでなくてもいいんじゃありません?」
「う、うむ。そうだな。」
 隆宗が頭をポリポリと書きながら同意し、思い出したように、話を戻した。
「話が逸れたが、明治殿。何か聞きたいことがあったのではないか?」
「ああ、はい。この地図ですけど。間違っていませんか?」
「「「間違っている?」」」
 明治の言葉に、その場にいた三人が、一斉に首をかしげた。
 そして、地図を持ってきた幸が、おずおずと答えた。
「それは、確かに領地の大きさなんかは、正確じゃないかもしれませんが、それでも間違いではないと思いますよ?」
 隆宗は、頷きながら補足する。
「今は、戦国の世だからな。常に、どこかの領地同士が争っている。だから、常にこの地図も変わってはいる。そういう意味では間違いかもしれん。」
 明治は困った顔をしながら、自分の言葉の補足をした。
「いえ、そういう意味での間違いではなくて。この地図全体のことです。」
「全体とは?」
 隆宗の疑問に、明治は地図の北のほうを指さしながら説明する。
「ここには、北海道があるべきなのに、この地図には存在しません。」
 明治はそのまま、指をスライドさせて、今度は南を指し示す。
「後、ここには沖縄があるはずなのに、同じようにこの地図には書かれていません。」
 地図から顔を上げた明治が見たのは、先ほどと同じように首をかしげた三人だった。
「「「ほっかいどう?おきなわ?」」」
 どうやら、彼らには聞き覚えのない単語らしく、しきりに首を捻っていた。
 その三人の様子を不思議に思いつつも、明治は話を続けた。
「まあ、そんな感じで多少違ってはいますが、この地図は僕の知っている日本のはずなんですが。」
「お主の言う、ほっかいどうやら、おきなわとやらは分からぬが、結局お主は南蛮渡来の者ではなく、我らと同じく、日の本の人間だったか。」
 明治の言葉を完全には理解していないようだが、隆宗たちも自分の中でどうにか折り合いをつけたようだった。
「それにしては、お主の言う、「加我根県」とやらも「前陸市」とやらも載っておらぬな。お主の年が十六ということは、少なくともこの地図になければおかしいはずだが。」
「そうなんですよね。」
 隆宗と明治は、二人して頭を悩ませてしまった。
と、そこへ、
―ぐぅ〜。
 それまでのシリアスな空気をぶち壊すかのように、明治の腹の虫が盛大に騒ぎ立て、その場の全員の視線が、明治に集中する。
「あ、あは、あははは。」
 頭をぽりぽりとしながら、明治はごまかし笑いを浮かべた。そして、
「「「「…、ぷっ。」」」」
 その場の全員が一斉に吹き出し、たちまち部屋は爆笑の渦に巻き込まれた。
「くはははは。」
「ははははは。」
「あはははは。」
「だはははは。」
 どうやら、全員共通のツボに入ったらしく、しばらくは笑いが収まらなかった。
 やがて、笑いが収まった時には、全員が息も絶え絶えといった様子で、ぐったりとしていた。
「仕方ない。一度、昼飯を食べよう。」
 笑いすぎて痛くなった腹をさすりながら、隆宗が提案した。顔が微妙に歪んでいるところを見ると、どうやら、油断すれば再びこみあげてくる笑いを、必死にこらえているらしい。そして、それはほかの三人も同じことのようで、三人は、隆宗の提案に無言で頷いただけだった。
 その後、昼食を取りに行った幸が、数人の女性とともに、お膳を持って現れた。そして、隆宗、光姫、明治の前に配膳を済ませたところで、幸たちは立ち去って行った。
 メニューは、シンプルに焼き魚と、お浸し、みそ汁とごはん、といった内容だったが、調理の仕方が良かったのか、空腹のためなのか、とにかくその美味しさに、明治は感動したようで、無言で食べ続けたのだった。