朝の布団から中々抜け出せない
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、なんだかんだで結構休みが多く、
かなりだらだらと過ごしていました。
一応やるべきことはあるのですが、
どうにも気力が湧かなくて、延ばし延ばし。(汗
いい加減、気合を入れなおそうと思います。
それはそうと、先日、久方ぶりに近所に住む
幼馴染の友人と話しました。
昔は何も考えていなかったのですが、
やはりこの年になると、いろいろとしがらみを経験して
大変だと言っていました。(笑
一度、近所の幼馴染たちを集めて飲み会でも開こうかなぁ。
幹事は私になること請け合いですけど…。(泣
そんなわけで、いつもの奴を更新します。
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




 翌朝目を覚ました明治が、井戸で顔を洗っていると、鉦定が手拭いを渡しながら、声をかけてきた。
「明治。もう大丈夫なのか?」
「鉦定さん。ありがとうございます。もう大丈夫です」
 明治は渡された手拭いで顔を拭きながら、お礼を言う。
「お主が野盗に襲われたと聞いたときは、城中の皆が心配しておったぞ」
 鉦定の心配そうな口ぶりが珍しく、明治は思わず素直にそのまま感想を言った。
「僕を心配してくれるなんて、鉦定さんにしては珍しいですね」
 その一言が、鉦定の気分を一変させた。
「ほほう。普段、お前が私をどう思っているのかよくわかったよ。これからは、今までの倍はきつくしてやる」
「へっ!?」
 明治の余計なひと言に、鉦定は満面の笑みを浮かべるが、その眼は笑っていないため、明治が与えられた恐怖感は、いつも以上のものだった。
 明治は、思わず後ずさりをすると、くるりと向きを変えて、その場から逃げ始めた。
「か、勘弁してください!」
「待たんか!こら!」
 病み上がりの明治を本気で鉦定が追い回す。ぎゃあぎゃあと騒がしい追いかけっこは、明治がへばるまで続いた。
「ぜーはー。まったく。貴様という奴は」
 朝から無駄に体力を使った鉦定が、八つ当たり気味に明治を睨みつける。対する明治は恨みがましい声で抗議する。
「鉦定さんが追いかけてくるから悪いんです。というか、どんなけ気が短いんですか」
「むっ。それは貴様が…。やめよう。これ以上やっても不毛なだけだ」
「賛成」
 二人は軒下に寝転びながら、同時に空を見上げた。その空は、先日の野盗の襲撃が嘘のように、どこまでも澄んだ蒼色だった。
 鉦定が視線はそのままに、
「明治。貴様は本当に大丈夫なのか?」
「?さっきも言いましたけど、大丈夫ですよ。幸い大した怪我もなかったし」
「そうじゃなくて。貴様の心のほうだ」
「心?」
「貴様の目の前で、友人の少年が殺されたことは私も聞いた」
 鉦定の言葉を聞いた瞬間、明治の表情が陰った。鉦定は、あえて明治を見ずに話を続ける。
「心の傷というものは、体にできた傷とは違って、そう簡単には治るものではないし、きちんと対処しないと、もっとひどくなる」
 鉦定の、まるで自分がそうだったとでも言うような口調に、明治が思わず鉦定を見ると、普段とは違い、どこか憂いを含んだ表情をしていた。
「鉦定さんにも、何かあったんですか?」
 聞くつもりはなかったのに、気が付けばいつの間にか質問していた。
「まあ、私にも似たようなことがあった。それだけのことだ」
「すいません」
 ぽつりと謝った明治に、鉦定は苦笑しながら明治の頭にぽんと手を乗せた。
「もう昔のことだし、私の中では決着もついた。だからもう気にしてないよ。それよりも、
今はお前だ。辛いときは辛いと言えばいい。悲しいときは泣けばいい。苦しいときは誰かを頼ればいい。とにかく我慢する必要はない」
「…はい」
 鉦定の思わぬ優しい言葉に、明治はいつの間にか涙を流していた。
「っく、ぐぅ、うわぁぁぁ!」
 幼い子供のように泣きじゃくる明治を、鉦定は優しく背中を叩き続けた。
 しばらくして、泣いたことで若干余裕が出てきたのか、明治は照れ笑いをしながら、頭を下げた。
「恥ずかしいところを見せてしまいました」
「なに。気にすることでもあるまい。お前もまだまだ子供だ。誰かに甘えたいときもあるだろう」
 それを聞いた明治が憮然としながら、
「むっ。子ども扱いはやめてください。僕はもう十六ですよ」
「はっはっは。私の半分程度しか生きていない若造が。お前は永遠に子供だ」
「むき〜!だったら、鉦定さんはもう、おっさんじゃないですか!や〜い!」
「おまっ…、言うに事欠いておっさんとはなんだ!」
 よほど子供扱いされたことが気に食わなかったのか、明治が仕返しとばかりに、鉦定を馬鹿にし、鉦定がそれに憤慨する。そして、子供のケンカが始まった。
「私はまだ若い!それにガキには分からない魅力にあふれているんだ!」
「でももうすぐ三十じゃないですか!十分おっさんだ!」
「っ、この!さっきまで人に慰められながらみっともなく泣いてたくせに!このガキ!」
「おっさん!おっさん!おっさん!」
「貴様!少しは私を敬え!このガキ!ガキ!ガキ!」
「おっさんおっさんおっさんおっさんおっさんおっさんおっさん!」
「ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ!」
 互いに額を突き合わせて罵り合う二人を、偶然通りがかった幸が見て、ぼそっとつぶやいた。
「二人とも子供」
 その場に居た、明治と鉦定以外の全員が一斉に頷いた。
 二人が誤魔化し笑いをしていると、
「「ぐぅっ」」
 二人の腹の虫が同時に騒ぎ立てた。その数瞬後、その場の全員が一斉に噴き出して、城の庭に笑い声が満ちた。
 笑いが終息したところを見計らって、幸が鉦定と明治に声をかけた。
「二人とも、朝ごはんの支度ができていますよ。早く食べないとお館様が全部食べちゃいますよ」
「「しまった!」」
 二人は慌てて朝食が用意されている部屋へと向かい、それを見届けた幸が呆れたように笑うのだった。
やがて、朝食も終えた明治は、いつも通り訓練や勉強に取り組んでいたが、その動きにはどこか精細さが欠けていた。いくら先ほど鉦定の前で泣いて、多少の余裕が出てきたとはいえ、まだ矢矧のことを引きずっているのだろう。
 その様子に気づいた鉦定は、隆宗と相談をして、明治の訓練と勉強をしばらく休みにする決断を下し、また、明治と仲のいい幸に、精神的なフォローを頼んだ。
 幸もまた、明治が心配だったために、鉦定の頼みに二つ返事で了承し、気分転換と称して、明治を城下町へと誘った。
 活気あふれる城下町を、二人は歩いていた。
「おっ、兄ちゃん。可愛い子を連れてるね。どうだい?二人で一緒に食べないかい?」
 屋台の親父が快活に笑いながら、二人にまんじゅうを売りつけようとする。
「え、いや、その、あまりそういう気分じゃ…」
「おじさん!二つ頂戴!」
 断ろうとする明治を遮って、幸がまんじゅうを買って、嬉しそうに明治に手渡した。
「ほら、アキ君。美味しそうだよ?食べよ?」
 そういって、幸は自分が持っていたまんじゅうにかぶりついた。
「ん〜。甘くておいしい!」
 満面の笑みを浮かべる幸につられて、明治もまんじゅうにかじりつく。
 それをみて、幸が顔を近づけながら、
「どう?美味しい?」
「う、うん、美味しいです」
 明治の答えに満足したのか、幸は軽い足取りで、別の店を覗き込みにいった。
「(いつの時代も、女の子っていうのは買い物が好きなんだなぁ)」
 明治はそんな場違いな感想を抱きつつも、どこかで気持ちが軽くなっていくのを感じた。
 そして、その日の夜。
 すでに城の明かりは落ちて、誰もが眠りについた頃、明治は夢の中で矢矧に会っていた。
「やあ、明治。」
「や、矢矧…なの?」
 矢矧が軽い調子で声をかけてくるのをみて、明治は眼を見開いた。
「やだなぁ。何泣いてるのさ」
 矢矧に言われて、明治は初めて自分が泣いていることに気づき、慌てて涙を拭う。
「だ、誰が泣いてるんだよ!」
 明治の強がりに、矢矧は苦笑した。
 明治は悲しそうな顔で、矢矧に訊いた。
「これって、もしかしなくても、夢…だよな?」
「ああ。そうだな」
「そうか。そうだよな。矢矧は、僕を庇って死んだんだ」
「…明治。ごめん」
 矢矧が顔を俯かせながら謝った。
「別に矢矧が謝ることじゃないよ。僕が弱かったせいだから」
 再び泣きそうになりながらしゃべる明治の頭をなでながら、矢矧がささやいた。
「もういいよ。俺はお前を守ることができて嬉しかった。だから、お前がそうやって悲しむ必要もないし、ましてや、傷つくことなんてないし、俺も気にしてない」
「でも!僕がもっと強かったら…」
「そうやって、いつまでも済んでしまったことを嘆いていても仕方ないだろう?お前には未来がある。いつまでも過去のことにこだわって、その未来を無駄にするな。強かったらなんて言うなら、これから強くなればいい。強くなって、お前が守りたいものを守ればいい」
「強く…なれるのかな?」
「なれるさ。自分を信じろ。もし自分で自分が信じられないなら、お前を信じている大切な人を信じろ。そうすればきっと、いや、必ず強くなれる」
「自分を信じる誰かを信じる…」
 矢矧の言葉が強く明治の中にしみこんでくるのが分かった。
「っと、そろそろ時間か」
 矢矧に言われて、明治が周りを見ると、それまで暗かった空間が白み始めていた。そろそろ夜が明けてきているのだろう。
 矢矧がすうっと手を挙げ、明治もそれに応え、互いの手を打ち合わせた。
―パンッ
 小気味いい音が響き、二人が笑顔になる。そして、
「じゃあな、親友」
 その矢矧の言葉とともに、辺りが光に包まれ、明治は眼を覚ました。
 日の光が、障子を通って柔らかく明治の部屋を照らしていた。
 夢のおかげなのか、気持ちがとても楽になった明治は、その日の朝をとても清々しいと感じていた。
「矢矧…、ありがとう」
 布団に横たわったまま、ぽつりと呟く。とそこへ、控えめに障子を叩く音とともに、幸が現れた。
「アキ君。起きてる?」
 きっと、自分を心配してくれているのだろうが、起こすことを目的としているならば、そんな控えめな声では意味がないと思い、それでも幸の自分を気遣う優しさに、明治は嬉しさがこみあげてきた。
 明治は、部屋を満たしている爽やかな朝の空気を、胸いっぱいに吸い込むと、元気に声を張り上げた。
「おはよう!幸さん!」