小さな地震が頻発している
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、先日姉の旦那の父親が亡くなったということで、
京都まで土日を使っていってきました。
そこで、何故か親族側の席に座る私。(汗
正直、ものすごく肩身が狭かったです。
そして、式の途中で弔問客に香典返しを渡す役目を
仰せつかって、さらに疑問は膨らみました。
その後も、何故か火葬場までついていき、
なんだかんだで初七日まで付き合うことに。(汗
更には、同じ京都に住んでいるからでしょうか、
私の叔父まで付き合っていました。
そんなこんなで家に帰ってきたのですが、
かなり疲れた二日間でした。
というわけで、本日も更新します。
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




 朝食が終わり、明治は隆宗と鉦定に頼み込んで、今日からまた勉強や訓練を再開させることにした。
 最初は心配していた隆宗と鉦定だったが、明治のやる気に満ちた目を見て、どうやら野盗と矢矧の件に決着をつけたらしいと分かり、訓練と勉強の再開に了承したのだった。
「明治。貴様一体どうした?」
 いつものように勉強を教えていた鉦定が、軽い驚きをもって明治に訊いた。
「どうしたって、何がですか?」
 あまりにも唐突かつ抽象的な質問に、明治が首を捻る。鉦定は、戸惑ったような顔で、
「いや、今までのお前だったら、そろそろ集中力が切れてダレてくるはずなのに、今日はそんな様子が全くないから」
「失礼な!」
 明治は思わず憤慨したが、すぐに落ち着いて、心境の変化を話した。
「僕は強くなるって約束したんです」
「約束?誰と?」
「矢矧とです。と言っても、夢の中で、ですけど」
 明治は、夢で見たことを話しはじめた。
「矢矧がいつまでも自分が死んだことを悲しんではいけない、自分が弱いと思うなら、誰かを守れるくらいに強くなって、大切な人を守ってあげろ、って言ってくれたんです。だから、ちゃんと勉強して、訓練して、強くなろうと決めたんです。馬鹿らしいかも知れませんが、それが約束です」
「そうか」
 鉦定は、明治の話に対して短く相槌を打っただけで、しばらく黙り込んでいたが、やがて何かに納得したのか、「うむ」と頷くと、意地の悪い笑みを浮かべた。
「それじゃあ、勉強も訓練もいつも以上に厳しくしないとな」
「望むところです!」
 鉦定は軽い冗談のつもりで言ったのに、明治が強い意志を漲らせて受けて立ったので、逆に鉦定が面を喰らうことになってしまった。そのまま、少し固まっていた鉦定だが、やがて「ふっ」と笑うと、
「認めよう。お前の覚悟は本物だ。だから、私も全身全霊を持って、お前に私の知るすべてを教えよう」
「お願いします!」
 鉦定が見たのは、明治の強い意志を秘めた眼だった。
 それからまた別の日。
 明治は庭で一人、木刀を振り回していた。と言っても、剣術の経験があるわけでもないど素人なので、いろいろと間違っているし、見ていて危なっかしいことこの上ない。それでも、明治なりに懸命に振り回していると、突然、隆宗が声をかけてきた。
「明治、一体お前は何をしているのだ?」
「見ての通り、剣の稽古ですけど?」
「いや、見ても分からなかったから聞いたんだが…」
「何を当たり前のことを?」と首を傾げる明治に、隆宗がツッコミを入れる。
「それで?どうして急に剣の稽古なんか始めたんだ?」
 隆宗に訊かれて、明治は持っていた木刀をぎゅっと握りしめて、
「矢矧と約束したんです。強くなるって。強くなって誰かを守るって約束したんです」
「矢矧と?」
 怪訝そうな顔をする隆宗に、明治は鉦定と同じ説明をした。
「そういうことか。それなら、その約束を守らないといけないな」
「はい。だから、剣の稽古も始めたんです」
 そういって、明治は再び木刀を振り回そうとしたが、隆宗がそれを呼び止めた。
「明治。そんなことでは強くなれないし、いつまでたっても剣術も上達しないぞ」
「はあ、でも、僕、剣なんて使ったことないですから」
 明治の困った顔に、隆宗はぽんと膝を叩いた。
「よし、それじゃあ、先祖代々伝わる剣術を教えよう!その名も「水(みず)葉流(はりゅう)剣術(けんじゅつ)」だ!」
 隆宗は何故か自信満々に胸を張るが、明治の反応が薄いことに気づくと、ショックを受けたように肩をがくりと落とした。
「明治の反応が薄い。こんな無名な剣術は習いたくないんだな」
 隆宗を放っておくとどんどん凹んでいきそうだったので、明治は慌ててフォローした。
「お、お館様自ら教えてくれるなんて、光栄だなぁ。それに剣術も強くなれそうだなぁ」
「むっ!そうか。それなら教えてやろう!」
 かなり棒読みのフォローだったが、それでも機嫌を直した隆宗に、明治は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
 隆宗は、それまでの空気を入れ替えるように軽く咳払いをすると、明治に少し待つように言った後、どこかへ去っていった。
 それから十分ほどして、隆宗は手に木刀を下げて戻ってきた。
「それじゃあ、早速剣術を教えよう…、と思ったのだが、まずは基本から教えておこう」
「基本?」
「最初から、お前はいろいろ間違えている。見てろ」
 そういうと、隆宗は持っていた木刀を正眼(せいがん)に構えた。
「これが基本の構え。この構えは、どの剣術でも同じ基本中の基本。やってみろ」
 明治も見様見真似で、木刀を正眼に構える。その構えを見て、隆宗が間違っているところを指摘する。
「右手は鍔元で、左手は柄頭の近く。背筋を伸ばして、剣先を相手の喉元の高さへ」
 隆宗にあちこち指摘されながら、明治が構えを治していくと、先ほど隆宗が見せたように構えが様になっていった。それを見て隆宗が満足そうに頷く。
「この基本の構えと持ち手を忘れるな。この構えは攻防一体の優れた構えだからな」
「はい!」
「よし。じゃあ、その状態で素振りだ!見てろ。背筋は伸ばしたまま、自分の正中線をなぞるように、まっすぐ振りかぶって、まっすぐ振り下ろす。右手より左手に力を入れる。足は、左足で地面を蹴るようにする」
「ぶん!」と鋭く振り下ろされる隆宗の木刀。明治も真似をするが、慣れない振り方となれない持ち方に悪戦苦闘していた。
「むう。お館様みたいにうまくいかないです」
「はっはっは。まあ俺も最初のうちはそうだったさ。要は慣れだ」
 明治は隆宗の注意点を守って、素振りを繰り返す。そうして繰り返しているうちに、段々と素振りが様になってきて、剣筋も段々鋭いものになっていった。
 隆宗は満足そうに頷くと、
「うむ。中々様になってきたじゃないか。それじゃあ、昼休憩の後は、いよいよ剣術の稽古だ」
「はい!」
 二人は、木刀を持ったまま、昼食の部屋へと向かった。しかしその途中、女中頭のおさねさんに呼び止められ、そのまま説教を受ける羽目になった。
「ちょっと二人とも!何木刀持ち歩いてるんですか!ああ、しかも泥だらけの足で!せっかく掃除したのに!ちょっと二人とも、そこに正座しなさい!」
「ちょ、ちょっとおさねさん。一応、俺はこの城の城主なんだから…」
「だまらっしゃい!」
「はい。」
 おさねさんに一喝されて、隆宗はシュンとなってしまった。それを見た明治は、おさねさんの恐ろしさに、ガタガタと震えだした。
「まったく!あなたたち二人は!どうしてこう汚れるんですか!せっかく、城をきれいにしてくれている女中たちに申し訳ないとは思わないの!」
 すでに主従の立場は崩壊し、明治と隆宗は黙って怒られるしかなかった。それから三十分ほど、おさねさんの説教は止まることがなかった。
「今日はこれくらいにしておきます。すぐに木刀を片づけて、足を洗ってきてください!それが済んだらお食事ですよ」
 まだ少し怒りながらも、おさねさんはどうにか説教を切り上げてくれた。
 明治と隆宗は、お互いに顔を見合わせほっとすると、足を洗うべく、立ち上がろうとした。しかし、
「「イタタタタタ!」」
 固い床の上で、延々と正座をしていたため、当然のごとく、二人の足は痺れていた。二人は、しばらく床を転がりながら痺れをやり過ごすと、女中に手渡された手拭いで足を拭き、木刀を片づけてようやく昼にありつくことができた。