そろそろ朝起きるのがつらい
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、本日のタイトルですが、
実は先日、私の弟がiphoneデビューをしまして。
ちょっと操作が楽しそうだなっと
私も思ったわけです。
なので、今使ってる携帯の本体料金を
払い終わったら、私もiphoneに機種変更しようかと思います。
使い勝手やその他は、まあ慣れですね。
ちなみに、今現在滅茶苦茶暇です。
それはもう、仕事中にも関わらず
こうして日記を更新できるくらい。(汗
そいうわけで、今日も小説を更新します。
今回は、残りの第一章をすべて更新しますので、
かなり長くなります。
以上、本日のgachamukでした。
それではどうぞ。




 明治が目を開けると、最初に白い天井が目に入った。周囲を見回すと、白いカーテンで区切られ、薬の匂いが充満している。体を見てみると、包帯やばんそうこう
 痛む体を庇いながら、ゆっくりとベッドから降りる。そっとカーテンを開けて、ようやく自分が学校の保健室にいることを理解した。
「大丈夫?」
 声がしたほうを振り返ると、養護教諭が心配そうに明治を見ていた。
「何があったか覚えてる?」
「…、大体は。」
 財部たちに、暴行を受けている途中までは覚えていたが、どうやらいつの間にか気を失っていたようで、いつ財部たちが帰ったのかまでは覚えていない。
「教頭先生が、偶然体育館裏で倒れていたあなたを見つけて、教えてくれたの。」
「そうですか。」
「いったい、その怪我はどうしたの?」
「これは、その…。」
 言い淀む明治の様子を見て、養護教諭は何かを察したようで、深くため息を吐いた。
「言いたくないことだったら、別に聞かないけど?」
 この場で明治が、財部たちに暴行を受けたことを言えば、きっと彼らは停学になるだろう。
 しかし、停学が明けた後、彼らは恐らく、明治に停学になった報復に来る。
 そうなれば、きっと今まで以上にひどい目にあわされるに違いない。逆に、言わなければ?彼らは停学になることはなく、明治が告げ口をしなかったことを訝しみながらも、これまで通り、奴隷同然に扱うだろう。いや、もしかしたら、言わなかったことで、調子に乗って、これからは暴力を駆使してくるかもしれない。
 あれこれと考え込んでいる明治を見て、養護教諭が助け船を出した。
「わかった。言いづらいことなんでしょう?」
 明治は無言で頷いた。
「大体の予想はできてるから、あなたは私の質問にイエスかノーで答えて?安心して。別にあなたが教えてくれたって、わからないようにするから。」
 そういうことなら問題ないだろうと判断して、明治は了承した。
「じゃあ、最初の質問。あなたに暴力をふるったのは、財部君がリーダーの不良グループで間違いない?」
「…、はい。」
「それじゃあ、次の質問。彼らからの暴力は、今回が初めて?」
「…、はい。」
「じゃあ、今までは、暴力はなかったのね?」
「…、はい。」
 養護教諭は、そこまで質問をしてから、少し何かを考えるようにしてから、質問を再開させた。
「今度は、イエスノーじゃないことで聞かせてほしいんだけど、なぜ、彼らは突然あなたに暴力を振るったの?」
「それは…、ぼ、僕があいつらに逆らったから。」
「でも、逆らったのは今回が初めてじゃないんでしょう?」
「…、はい。」
「じゃあ、なんで?」
 養護教諭の質問に、明治は少し考えてから、心当たりを話した。
「多分、僕が最近いろいろと口答えをしたり失敗したりしたからだと思います。。」
 養護教諭は、黙ったまま、明治に先を促した。
「それで、今日あいつらに、もう従わないって言ったんです。それが多分…。」
「今回の暴行につながったと?」
 養護教諭の言葉に、明治はこっくりと頷いた。
「そう。分かりました。今日のことは、全教員と話し合いますので、後はこちらに任せてください。あなたはとりあえず、今日はもう帰って、病院できちんと怪我を見てもらってください。」
「はい。じゃあ、失礼しました。」
 明治は、指示に従って、帰ることにした。
正直にいえば、職員会議に議題として上って、その結果、財部たちに何らかの処分が下った場合、明治に対してのその後の報復が気がかりではあるが、悪いようにはしないという養護教諭の言葉を信じたかった。
それに、例え養護教諭から、職員会議の議題として出されるのを拒否したところで、明治が体育館裏で倒れていたという噂は広まっているだろう。ということは、いずれは真偽を確かめるために、明治に教師から呼び出しがかかるだろう。そうなれば、結局は財部たちのことが取り上げられることになるだろう。
どちらにしても、問題になるのであれば、後は早いか遅いかの違いしかない。であれば、結果はあまり変わらないだろう。
そこまで考えたところで、明治は自分の教室の前に着き、ガラっとドアを開けた。
授業中だったのだろう、シンと静まり返っていた教室は、明治の登場によって、にわかにざわつき始めた。
明治は、いつもの数倍の視線が自分に集まることを感じていたが、それを無視して、自分の席に着くと、そそくさと帰り支度を始めた。
唖然として明治の行動を見つめていた教師だったが、そこでようやく、明治の行動を制止しようと声をかけた。
「安部。待ちなさい。まだ授業中だぞ。」
 明治は、帰り支度を終えると、無言で教師に近づき、早退する理由を告げた。
 自分の授業の途中で早退されることに、教師は苦々しい表情をしていたが、養護教諭からのお達しでは仕方ないと納得したのだろう、無言で早退する明治を見送った。
 一方、明治は、教室から出ると、ため息を吐いた後、足早に校門へ向かった。幸い、途中で財部たちのグループに見つかることもなく、無事に校門を抜けると、明治は家まで俯いたまま、歩き続けた。
 そして、家に着くと、すぐに自分の部屋へ向かい、着替えもせずにドサッとベッドに倒れこんでしまった。
 そのまま、しばらく布団をかぶってふさぎ込んでいると、やがて携帯電話がメールの着信を告げた。明治が怯えながら、メールを開くと、送信してきたのは母親だった。
ほっとしながら、メールを読むと、どうやら今日は仕事が忙しすぎて、帰ることができないから、食事は外で適当に済ませるようにという内容だった。
明治は、適当に返信した後、再び布団を頭からかぶってふて寝をしてしまった。
そして、明治が目を覚ました時には、いつの間にか、日が落ちて真っ暗になった時だった。
明治は、空腹を訴える自分の腹に促されて、近所のファミリーレストランへと向かった。その途中で、明治は先ほど寝ていた時に見た夢を思い返していた。
その夢の中では、明治はいじめられることはなく、誰からも必要とされるような存在だった。自分を守ることはもちろん、誰か他人をも守る力を持っていて、自分や他人を脅かす存在を薙ぎ払うように、正義のために自分の力を振るい、皆に人気者の、現実の明治とは正反対の存在だった。
 明治は、自分が深層意識の中で、そんな正義の味方のような存在になりたいと思っていたのかと、自分が悲しくなってしまった。
 それからしばらくして、明治は注文した料理を、できるだけ早く片付け、夜の暗がりの中を、一人とぼとぼと歩いていた。
 すると、そこへ唐突に暗闇から声を掛けられた。
「おやぁ、あなたは…。」
 どこか聞き覚えのある口調で呼び掛けられ、明治は思わず声のしたほうへと振り向いた。そこには、いつぞやに明治とぶつかって、あの不思議な石を明治に渡した、怪しげな男が佇んでいた。
「あ、あんたはいつかの…、僕とぶつかった怪しい男。」
「はい〜。その通りでございます。」
「どうして、あんたが…。」
「どうしてと申されましても。まったくの偶然としか言いようがないですねぇ。あるいは、神のお導きか、悪魔の悪戯か…。どちらにしても、別にあなたを尾行していたとか、そういうことは一切ないので、ご安心を。」
 男は、貴族がパーティーなどでするようなお辞儀を披露した。そして、ふと顔をあげると、じっと明治に視線を向けた。
「じー。」
 わざわざ擬音を口にするあたり、人を馬鹿にしているようにしか見えない。とはいえ、そんな態度をとられ続けて、明治に無視できるはずもなく、明治は、思わずたじろいでしまった。
「な、なんだよ。」
 明治の言葉を無視して、男はつかつかと歩み寄ると、急に顔を明治のすぐそばまで近づけてきた。
「近い!近い!」
 明治は、顔を近づけてくる男を、必死に押さえつけた。何だか、既視感(デジャビュ)を感じるような光景である。
 どうにか顔を近づけようとする男を引きはがした明治は、荒くなった息を整えながら、男を睨みつけた。
「何の用だよ!」
「あなた。この間お渡しした石はどうしました?」
「石?ああ、あのお守りとか言ってたやつ。あれは家に置いてきてるけど?」
「がーん!」
 男は、明治の言葉にショックを受けたのか、頭を抱えて凹んでしまった。明治が、どうしていいのか分からずにいると、男は突然ガバッと起き上がり、明治に縋りついてきた。
「何でですか!お守りですよ?せっかく、あなたが不幸そうだからと差し上げたのに!何たる仕打ち!」
 そこまで聞いて、明治は昨日のことを思い出し、男に食って掛かった。
「何がお守りだよ!あの石を持って行ったせいで、昨日はいつも以上にひどい目にあったんだ!それに、今日だって…。何の役にも立ってないじゃないか!」
「あなたは変えようとしたのですか?」
 男は、今までの人を馬鹿にしたような態度から一変して、急に真面目な態度になった。そればかりか、口調まで今までと一変している。そんな男の変化に、明治はたじろいだ。
「あなたは何かを変えようとしたのですか?その努力をしたのですか?」
 再び同じことを聞いてきた男に、明治はたじろぎつつも反論した。
「したさ。今日したばかりさ。やっと決心して、あいつらに逆らったさ。けれど、結果はこの通り。殴られたり、蹴られたり。痛い目にあったんだ。もうたくさんだ!痛い目に合うのも、辛いことも、気休めも、何もかも。不条理だ、この世の中は!」
 油断すれば溢れてきそうな涙を必死にこらえながら、明治は自分の心情をすべて吐き出した。
 男は、黙ってそれを聞いていたが、やがてため息を吐いて、これまでの丁寧な口調から急に荒々しいものに変えた。
「痛いことも、辛いことも嫌だ?ふざけるな。何の代償もなしで、何かを変えることができると思っているのか?痛みを伴わない変革なんてありはしない。不条理?はっ、笑わせるな。この程度で不条理なんて嘆くんじゃない。この世界には、お前以上に不条理な目に遭いながらも、必死で毎日を生きているやつが掃いて捨てるほどにいるんだ。そんな彼らの前で、お前は今の言葉を言えるのか?彼らは、本当の地獄を知っている。誰かを犠牲にしなければ、自分たちが生き延びることはできない。人の死肉を食わなければ、自分が生きていけない。何の理由もなく、ただそこにいるからということだけで、簡単に命を奪われる。そういうところに比べれば、お前の経験してきたことなんて、微温湯(ぬるまゆ)にもほどがある。」
「でも…、」
「でももへったくれもあるか!」
 明治が反論しようとしたが、男が一喝して黙らせた。
「たった一度の行動で、今まで積み重なってきたものが、簡単に変わると思うのか?世の中はそんなに甘くはない。誰だって、辛くても苦しくても、必死に頑張って、やっと変えることができるんだ。それができないなら、とっとと、ここから逃げ出せ。誰もお前を知らない場所にでもいけばいいさ。」
 明治にとって、男の言葉は胸に突き刺さるものばかりだった。それ故に、明治は男に反論ができなかった。
明治が黙っていると、男は唐突に、それまでの口調から、元の人を馬鹿にしたようなものに戻した。
「さあ、あなたはどうしますか?残って、痛みと苦しみを味わいながら、変革しようとしますか?それとも、誰もあなたを知らない場所へ逃げて、新しい生活を始めますか?どちらにしても、あのお守りは肌身離さず持っていることをお勧めします。」
 男の突然の態度の変化に、明治が戸惑っていると、男はぺこりとお辞儀をした。そして、そのまま、顔だけを明治に向け、
「それでは、私はこれにて失礼させていただきます。あなたの選択が、今後のあなたにとってよき未来であることを、お祈りします。」
 本当にそう思っているとは思えないような態度で、もう一度慇懃にお辞儀をした後、すうっと闇にまぎれるように、男は去っていった。

 男が去ってしばらくした後、いつの間にか明治は、自分の部屋のベッドで天井を見上げていた。どうやら、無意識のうちに、家に帰っていたようだが、自分がいつの間に帰ってきたのか、まったく覚えていない。よく、事故に遭わなかったものである。
 ともあれ、明治にとって、いつ自分が帰ってきたかということは、今はどうでもいいことだった。それよりも、彼の思考の大半を埋め尽くしていたのは、先ほどの男との会話のことだった。
「「世の中そんなに甘くはない」か。」
 その通りだと自嘲する。昼間に、明治が財部たちに逆らったのも、一度抵抗すれば、彼らと決別できるかもしれないと思ったからだ。
しかし、結果としてそれは失敗してしまった。やはり、自分の考えが甘かったからだろう。今にして思えば、もっと事前に準備してから、行動を起こすべきだった。
あまりにも短絡的すぎた行動に、自分自身に怒りを覚えた。
「これからどうしようか。」
 また明日、明治が登校すれば、財部たちに呼び出されるだろう。そして、いつも通り、パシリを強要されるだろう。
「多分、抵抗しなければ、今日みたいなことにはならないんだろうな。」
 ただしその場合、今日の抵抗は無駄になり、今後も彼らにいいように使われ続けることになる。
 しかし、だからと言って抵抗すれば、今日と同じ目に遭うことは、間違いないだろう。
 人は、一度禁を破ってしまうと、後はそれに対する道徳や、倫理観などの抵抗が緩くなり、何度でも繰り返してしまうものだからだ。
「やっぱり、いくらパシられないようにするためって言っても、痛いのを何度も味わうのは嫌だよな。」
 そこで、明治は再び男が言っていたことを思い出した。
「何度も繰り返し抵抗して、初めて変革を得られる、それができなければ、誰も僕を知らない場所へ行け、だっけ?」
 ゴロンと寝返りを打ちながら、明治は男の言葉を信じようとしている自分に驚いた。
「何で、あんな怪しいやつのいうことを信じようとしてるんだろう?」
 それでも、あの男の言葉を信じようとすることは、不思議と嫌には思えなかった。
 だからだろう、明治は、男にもらった石を再び手に取った。そして、もう一度今後の考えに戻った。
「どう考えても、やっぱりパシリは嫌だし、だからと言って、これ以上痛い目を見るのも嫌だ。ということは、あいつの言う通り、どこか僕を誰も知らないような遠くへ行くことが、一番かなぁ。」
 そこまで考えて、明治は、ばたっと四肢をベッドに投げ出した。
「でもなぁ。誰も知らない遠くって言ったって、どうやって行けばいいんだよ。それに、母さんに何て言えばいいんだよ。」
 明治は、手にしていた石を強く握りしめた。そして、同時に強く願ってしまった。
「いっそ、過去にでも戻れればなぁ。あのときのことをやり直せるのに。」
 その瞬間、明治の手の中にあった石が、強い輝きを放った。そして、その輝きは、一瞬にして、明治の部屋を呑み込む。
 明治は、あまりの眩しさに、思わず目を瞑った。
 しばらくして、輝きが収まったのを感じた明治は、そっと目を開けた。しかし、そこは明治が先ほどまでいた、自分の部屋の中ではなかった。
 頬を撫でるやわらかい風、完全に広がる叢(くさむら)。遠くからは、完成のようなものと、金属を打ち鳴らすような音が聞こえてきた。
 そこは、確かに明治が知らない場所だった。