そろそろ暖房器具が大活躍な
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、以前捻挫した足首ですが、未だに痛いです。(泣
意外に長引いていて動きづらいですね。
現状、とりあえず普通に歩くことはできますが、
跳んだり跳ねたり走ったり踏み込んだり蹴ったりといった
動きができません。
…あれ?なんだろう、
普通に私の怪我報告になっていますね。(汗
というわけで、少し話題を変えて、
現在書いている最中のお話について少し。
現在、ほぼ書き終わりつつあります。
とはいっても、これからいろいろと修正作業に
入るわけですが…。
枚数的に言えば、単純計算で
400字詰め原稿用紙(所謂作文用紙)で400枚ほどに
なります。
我ながらよく書いたなぁ。(笑
そんなわけで、今日も更新します。
今回からまた新章になります。
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




第三章  親友と仇敵

 戦国時代の朝は早い。
 日の出とともに、人々は起きだして、朝食の準備や畑仕事などを始める。
 そして、簡素な朝食を済ませた後、本格的に自分の仕事に取り組み始める。
 それは、城仕えの者であれば、掃除や洗濯、戦の兵糧の準備や、馬の世話などであり、城下町の民であれば、農作業や商売、農具の手入れであり、武将たちであれば、自分たちの収める領地の視察や、設備の整備、兵士たちの訓練や、軍議などである。
 そうして、昼過ぎ辺りまで仕事をした後、夕方ごろに夕食を食べ、翌日の準備や、入浴をした後、一日を終えて眠ってしまう。
何せ、戦国時代には電気がないため、必然的に証明は松明(たいまつ)や蝋燭(ろうそく)になってしまうが、それらは非常に高価なため、できるだけ使用を控えている。
その結果、大抵は夜になると、そのまま布団に入ることになるのだ。
 明治も、隆宗に手伝いを申し出た翌日から、戦国時代の生活を始めた。
 しかし、明治のいた時代と大きく異なる生活サイクルに、始めは慣れずに戸惑ってばかりだった。
 朝は起きることができずに、幸を始めとした女中に無理やり起こされ、慣れない城の仕事に失敗を繰り返す。そうして、一日が終わるころには、明治はすでに疲れ切っており、日が落ちて、布団が敷かれると、すぐにもぐりこんでしまう。
 とはいえ、そんな生活も何度も繰り返せば、慣れてくるもので、一月が立つころには、明治は、城の生活にすっかり溶け込むことができた。
 そんなある日、手が空いた明治が、書庫で調べ物をしていると、小者に呼ばれた。
「明治様、お館様がお呼びです。」
「お館様が?」
 何の用だろうと、明治は首を傾げる。
 余談ではあるが、明治が隆宗の手伝いを申し出た翌日から、明治は隆宗を「お館」と呼ぶようになった。理由は単純に、周囲がそう呼んでいるからである。
 しかし、明治は「お館」と呼ぶことによって、隆宗や、城の皆と馴染めた気がしていた。
 それはさておき、明治が、小者に案内された部屋は、普段、隆宗が家臣たちと軍議を開いている部屋だった。
「(軍議が開かれている部屋?今日も確か話し合ってるはずだよな?)」
 明治の記憶を裏付けるように、部屋の中からは、話し合いの声が漏れてきていた。
 小者は、気にした風もなく、軽く襖を叩いた。
「お館様。明治様をお連れしました。」
「おお、来たか、明治。入れ。」
「失礼します。」
 隆宗に促されて、明治は襖をあけて、中に入った。
 そこでは、既に見知った顔の武将たちが隆宗と一緒に、床に置かれた地図を囲んでいた。彼らの顔を見ると、皆一様に明治を待ちわびた様子だった。
 よくわからない明治は、とりあえず、要件を聞いた。
「お館様、一体何の用ですか?」
「うむ。今、敵が領地に攻め込んできたと想定して、どういう陣形を組むか話し合っているんだが、中々有効な手がなくてだな。明治ならどうするかを、聞いてみたかったんだ。」
「?はあ。」
「とりあえず、この地図を見てくれ。」
 そういって、隆宗は手招きして、明治を呼び寄せた。
 明治は、呼び寄せられるまま、隆宗のそばに行き、とりあえず空いていた座布団に、腰を下ろし、地図を覗き込んだ。
 どうやら、以前に見た全国地図ではなく、隆宗の領地をできるだけ詳しく書いた、所謂地方版の地図のようだった。
「まずは、状況を説明しよう。今回の仮想敵は隣国の、犀音国(さいねのくに)。敵方の軍勢は、およそ六千。対するこちらの軍勢は二千程度で、数としては圧倒的に不利だ。」
 隆宗は、説明しながら、地図に書き込まれた「×印」を指さした。
「開戦場所はここ。我が国と隣国の境付近にある、平地。敵の兵力は、歩兵がおよそ半数の三千。弓兵がおよそ一千。槍兵が、一千三百。騎馬がおよそ二百。鉄砲隊が残り五百。それらの部隊が、ここに展開されている。」
 隆宗はそういいながら、犀音国寄りの場所を、大きくまるで囲んだ。
「こちらは、歩兵が一千。槍兵が五百。弓兵が三百で、騎馬と鉄砲隊が百。場所はここだ。」
 今度は、「×印」を挟んで、逆側にまるで大きく囲む。
 そして、にやりと笑いながら、明治を見て、
「さて、この不利な状況、お主ならどうする?」
 明治は、助けを求めるように、その場に列席している武将たちに視線を向けるが、彼らは皆一様に、主と同じようなにやにや笑いを浮かべるだけで、助言も何もしようとしない。
 明治は、諦めたようにため息を吐くと、しばらく考え込んだ。
 と言っても、明治に戦術や戦略の心得があるわけでもないので、明治が見たことのあるテレビや映画、小説や漫画などから、心当たりを探っていた。
「うーん。敵軍の勢力が圧倒的である以上、こちらから攻め込んでも、やられるだけですよね。だとすると、ここは守りに徹するべきかと。とはいっても、普通に守るだけだと、やっぱり負けてしまうからなぁ。いっそ、数を一気に減らせる兵器か何かがあれば…。」
 独り言のようにぶつぶつつぶやく明治を、その場の全員が期待しながら見ていた。
 それに気づかない明治は、なおも独り言を続けた。
「数を一気に減らせる…か、待てよ。あらかじめ相手が戦闘不能な状態にすればいいのか?」
「ほう。」
 隆宗が、明治の言葉に興味深そうに聞き返した。
「その方法とは、どうするのだ?」
「えっ?ああ、はい。ええっと、例えば、戦闘が始まる前に、あらかじめ敵軍に体調が悪くなる何か、例えば、腐った食べ物とか毒のあるものとかを食べさせるとか、酒で敵を酔わせてしまうとか、そんな感じでしょうか。後は、敵の進路に落とし穴みたいな、罠を仕掛けておくのもいいかもしれませんね。」
 隆宗は、感心したように頷いた。
「なるほど、敵の勢力をそのまま迎え撃つのではなく、その勢力を削ってから戦うか。それなら、こちらの被害も少なくなるし、勝率も上がるな。」
 隆宗の言葉に、他の武将たちも感心しながら頷いていた。
 明治は、照れ臭くなって、顔の前で手をバタバタと振った。
「い、いや。でも、それが上手くいくかはわかりませんし、当然、敵も罠とかには警戒するはずですから、やっぱり素人の浅知恵ですよ。」
 明治としては、言い訳のつもりで言ったが、その場の武将たちは、ますます感心したようで、
「ほう。そこまで分かっているとは。中々侮れないな。」
「うむ。まだ子供とはいえ、中々知恵が回る。」
「これは、未来から来たというのも、案外信じられるかもしれんな。」
 と口々に明治を褒めた。
 対する明治は、混乱の極みだ。正直、なぜ自分がここまで褒められているのか、よくわかっていないのだろう。
 別に、明治が考えた戦略が、目新しいものだったり、優れていたわけではない。
 その証拠に、明治が到着する以前から、そういう戦略はすでに話し合いの場に出ていたのだ。
 では、なぜ彼らがここまで明治を褒めるのか。
 その原因は、戦国の世という時代背景にある。
 この時代、平民であれば、勉強する機会などなく、明治よりもはるかに小さいころから下働きや、家業の手伝いをしている。
 逆に、武家の出であれば、そういった勉強も確かにするのだが、それは、元服を迎え、初陣に出ても問題ないと判断されて、初めて教えてもらえることなのだ。
 そういう時代背景があるからこそ、武将たちは、明治に感心したのだった。
 ともあれ、そういうことを知りもしない明治は、褒められたことがよほど嬉しかったのだろう、顔がにやけるのを止めることができなかった。
 隆宗は、その様子を見ながらしばらく顎に手を当てて、何かを考えていたが、やがて、何か納得したように頷いた。
「そうだ明治。お主、本格的に兵法を学んでみるつもりはないか?」
「へ?」
 隆宗の全く予想外の提案に、明治は思わず間抜けな返事をした。
「お主には、軍師としての才能がありそうだ。だったら、本格的に兵法を学んでみてはどうかと思ったのだ。」
「はあ…。」
「そうだな。そのうち明治には、軍師として戦場(いくさば)に出てもらうのもありだな。」
「ええ〜っ!!」
 驚愕の声を上げる明治を無視して、その場の武将たちは隆宗の提案に納得したらしく、皆一様に頷いた。
 一方、明治は戸惑っていた。
 確かに、明治は隆宗の手伝いを申し出たが、それは隆宗の雑務だったり、城の仕事の手伝いだったりで、戦に出るつもりは毛頭なかったのだから、仕方ない。
「戦に出るかどうかは、また後で考えるとして、とりあえず兵法の勉強だけでもしてみてはどうだ?」
 明治のあまりの狼狽(ろうばい)ぶりに見かねたのだろう、武将の一人が、当面の折衷案を提示して、明治は、それに同意した。
「そ、そういうことならやってみても…。」
 そうして、明治は翌日から隆宗の手伝いに加えて、軍師としての勉強もすることになり、明治のいた時代に比べて、忙しくも充実した日々を送ることになったのだった。