各地で初雪が観測された
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、以前捻挫した足首ですが、
いまだに完治しません。(汗
しかも、日によって痛さの度合いが違うという
おまけつき。
ある日は調子よくて比較的楽に歩けると思ったら、
別の日は痛くて顔をしかめるほど。
一体どうしたらいいのでしょうか。(泣
それはそうと、本日は忘年会に行ってきます。
約一年ぶりに再会する仲間たちなので楽しみです。
とは言え、今日も今日とて仕事なのですが。
さて、小説の話を少しだけ。
現在、ようやく一通り書き終えることはできました。
ただ、ここからは誤字脱字だけでなく、
文章の表現などもチェックしないといけないので
ある意味一番大変な作業です。
というわけで、前回の続きを更新します。
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




今までの自分はもしかしたら、生きていなかったのかもしれない。
 そう感じてしまうほど、今の明治はとても充実した日々を送っていた。
 先日から始めた戦略の勉強や、隆宗の雑務の手伝い、時折参加する軍議などは、今まで経験したことがないため、明治にとって、そのすべてが新鮮に映った。
 また、そうした仕事の合間や、食事時などに、隆宗の家臣の武将たちや、幸や光姫を始めとした城で暮らす人々とも、かなり仲良くなることができた。
 明治がいた時代では、明治はいじめの対象であり、母親を除いて、明治と一緒に笑ったり、食事をしたりといったことをしてくれる人は、誰ひとりとしていなかった。
 また、元がネガティブな性格のためか、本格的に身を入れることがなかった。そのため、テスト対策などで覚えたこと以外は忘れてしまうのが常だったが、戦国時代に来て、自分の能力が認められたことが幸いしたのか、自分から意欲的に勉強を始めたため、必要なことはすぐに覚えられたし、それを忘れてしまうこともなかった。
 確かに、忙しいことは忙しい、でもそれ以上に楽しいと明治は感じていた。
「こら!よそ見をするな!」
 明治の頭に、丸めた本が振り下ろされ、「ポカッ」と小気味いい音を立てた。
「アイタッ。」
 大して痛くない頭をさすりながら、明治は叩いた犯人を見上げた。
 そこには、一般的に想像される羽織袴を着た武将ではなく、まるで庶民のようなシンプルな服装をした、ともすれば粗暴な一般人にも見える武将、志茂(しも)月(つき)鉦(かね)定(さだ)がいた。
 鉦定は隆宗が信頼を置く武将で、また、戦略、戦術に詳しく、有事の際には、軍師として隆宗を支える右腕のような存在である。
 先日、明治が戦略を学ぶことになった時に、鉦定は、隆宗から明治の教育を託されたのだった。
「全く、貴様、少し集中力が足りないぞ。そんなことでは、戦局を見誤ってしまう。」
 とはいえ、この日、鉦定が授業を始めてから、既に三時間以上が経過していた。
 さすがに、小休止を挟んだとはいえ、明治も疲れ始めていた。
 その様子に気づいた鉦定は、軽くため息を吐くと、
「仕方ない。今日はここまで。続きはまた明日だ。」
 鉦定の授業の終了宣言に、明治は思わずそのまま後ろに倒れこんでしまった。
 鉦定は、そんな明治を見て、苦笑しながら、
「休憩が終わったら馬を引いて門まで来い。乗馬の訓練がてら、散歩に行くぞ。」
 そう告げて、すたすたと立ち去ってしまった。
 一方、明治が床に寝そべりながらだらけていると、幸がくすくすと笑いながら顔をのぞかせた。
「お疲れ様。アキ君。これ、女中頭(じょちゅうがしら)のおさねさんが持って行けって。」
 幸はそういいながら、手に持っていたお茶を手渡した。そのお茶は、淹れたての熱いものではなく、程よく冷めていて、すぐに飲める温度だった。
 幸の心遣いに感謝しながら、明治は手渡されたお茶を一気に飲み干した。
「ぷはっ。生き返った。」
「ふふふ。大袈裟ね。」
「大袈裟じゃないですよ。鉦定さんは、鬼ですね。」
「またまた。鉦定様は優しいお方だよ?」
「いやいやいやいや。あれだけ人を机に縛り付けておいて、この後さらに乗馬の訓練ですよ!?」
 明治は、幸にツッコミを入れながら、再び項垂れてしまった。
「はぁ〜。まあいいか。正直、今まで生きてきて、今が一番楽しいし。」
「そうなの?」
「うん。今までは、勉強してても楽しくなかったし、何よりいじめられてましたから。」
「いじめ?なにそれ?」
「ああ、ええっと、要は力の強いやつに虐げられてたってことです。」
「抵抗したりはしなかったの?」
「初めはしてたんですけどね。抵抗すればするほど、後でもっとひどい目に遭うので、途中から抵抗する気がなくなったんです。」
「そう。大変だったんだね。」
「まあ。ここにはそういう連中がいないだけましですね。」
「あ〜き〜は〜る〜!いつまで休憩してるんだ貴様!!」
「「ひぃ!?」」
 中々来ない明治にしびれを切らしたのだろう、鉦定が恐ろしい形相で、やってきた。
「確かに休憩していいとは言ったが、長いにもほどがあるだろう!」
「す、すいません!」
「さっさと支度をして、乗馬の訓練だ!」
「は、はい〜!」
 慌てて準備をしに走り去る明治に、鉦定は苦笑するしかなかった。
「全く、あやつは。やる気があるのかないのか。」
「鉦定様、アキ君の調子はどうなんですか?」
「ん?ああ、基本的には成長しておるよ。覚えもいいし、応用も効く。筋はいいと思うよ。」
「へぇ、じゃあ初陣も近そうですか?」
「それは、どうかな。理論と違って、実践は何が起こるか分からんし、何より、あやつが戦に出ることを望んでいないからな。」
「そうなんですか。ちょっとがっかりです。」
「何だ?幸。お主、明治に失望でもしたか?」
 そう問われた幸は、顔を真っ赤にしながら慌てて否定した。
「い、いえ。そういうことではないんです。ただ、アキ君が鎧と陣羽織を着たところを見たかったなと思って。」
 幸の言い訳を聞いて、鉦定は快活に笑った。
「はっはっは。そういうことか。それなら、お館様に相談してみるといい。」
「お館様にですか?」
「うむ。気の早いあの方のことだ。きっと、明治の鎧と陣羽織を作っているだろう。」
 隆宗の気の早さは、この城にいるものならば、皆が知っていたため、幸は思わず納得してしまった。
 そこへ、庭のほうから、鉦定を呼ぶ明治の声が聞こえてきた。
「おっと。教育係のわたしが遅れていくわけにはいかないな。幸もあまりサボってると、おさねさんに叱られるぞ?はっはっは。」
 鉦定は、手をひらひらと振って、明治の元へと向かっていった。
 それからしばらくして、城の近くで、明治は馬に乗ったまま、刀を振り回す鉦定に追い掛け回されていた。
「どわぁ〜!」
「どうしたどうした!早く逃げないと、斬られるぞ?」
 なぜこんなことになっているのかと言えば、「乗馬経験の無かった明治を、一刻でも早く、馬で自在に動き回れるようにするため」というのが、鉦定の弁である。
 曰く、「何事も、命の危機になれば、通常以上の力を発揮して、進歩も早い。」ということらしく、明治は、乗馬訓練が始まってからずっと、鉦定に刀を持って追い掛け回されていた。
 スパルタ教育にもほどがあるとは思うが、その結果、明治はわずか数日の間に、馬での全力疾走が可能なまでに上達していたため、あながち間違いではなかったのだろう。
「いや〜!く〜る〜な〜!」
「はっはっは。ほれほれほれほれ!」
 必死に逃げ惑う明治を、鉦定は笑いながら追いかける。
 しかし、よく鉦定の表情を見てみると、実にサディスティックな笑みを浮かべていた。どうやら、この訓練は、明治の乗馬の訓練であると同時に、鉦定のストレス解消も兼ねているようだ。
 その後も、端から見れば間抜けな、しかし、当人からすれば正に命がけである、この奇妙な追いかけっこは続き、やがて、馬がかなりへばってきたところで、ようやく終わりとなった。
当然、馬を操る明治の体力も底をつき、馬の上に突っ伏して、ぜーはーと息を荒立てていた。
「なんだ。その体たらくは。この程度でへばってどうする。情けない。」
 鉦定は、やれやれと首を振ると、ため息を吐きながら、抜身の刀を鞘に納めた。
「この鬼教官め…。」
「ん?何か言ったか?」
 明治がぼそっとつぶやいた言葉が聞こえた鉦定は、頬をひくつかせながら、刀に手を掛けた。
 明治は、冷や汗を流しながら、慌てて否定する。
「イエ、ナンデモアリマセン。」
「…全く。お前という奴は。」
 鉦定は、もう一度ため息を吐くと、刀から手を放した。
「仕方ないな。今日の訓練はここまで。馬に水を飲ませて、少し休ませたら、城に戻るぞ。」
 それを聞いた明治は、這う這うの体で馬から降りると、近くを流れている川へと馬を連れて行き、馬の横で、川に直接顔を突っ込んで、がぶがぶ水を飲んだ。
 そして、一通り水を飲んで満足した明治は、鉦定に渡された手拭いで顔を拭いた後、そのまま、河原に横になり、そばに立っていた鉦定を恨めしそうに見上げた。
「どうして、毎度毎度、刀を振り回して、追いかけてくるんですか?」
 明治の唐突な質問に、鉦定は何を今更という感じで笑う。
「その方が、上達が早いだろう?……あと、楽しいし。」
「今、ぼそっと何か言った!楽しいとか聞こえた!ひどい!おーぼーだ!」
「ええい!うるさい!実際、上達しておろうが!それで文句はないだろう!」
「うぐっ。確かにそれはそうですけど…。」
「じゃあ、感謝こそすれ、文句を言われる筋合いはないな。よし。この話は終わり。休憩も終わりだ。城に戻るぞ。」
 勢いよく言い終わって、さっさと馬を城のほうに連れて行く鉦定を、明治はまだ憮然として見ていたが、やがて、ため息を吐くと、馬の手綱を引いて、鉦定の後ろを追っていった。