朝水たまりが凍り付いている
今日この頃ですが、
皆様、いかがお過ごしでしょうか…?
さて、先日京都へ行ってきたときに、
叔父の家に泊まったのですが、
その時に叔父が近所で拾ってきた
ゴルフクラブを一揃い貰い受けました。
私は以前、友人とともに何度か
打ちっぱなしに行ったことがありますが、
その時は、友人のクラブを借りていました。
そして、今回姉の旦那がゴルフの練習をするということで、
ついでとばかりに私もやろうと思った次第です。
というわけで、現在我が家にはゴルフクラブがあるのですが、
あいにくまだ一度も触っていません。
ここの所少しばかりバタバタしているもので…。(汗
そんなこんなでいつもの話を更新します。
第四章もそろそろ終わりに近づいています。
以上、本日のgachamukでした。
それでは、どうぞ。




 やがて、昼食を終えた明治と隆宗は、今度は城内にある道場にいた。
「それじゃあ、改めて水葉流剣術を教えよう」
「お願いします」
「まず、水葉流の戦い方だが、流れる水や風に舞う木の葉のように、流れに逆らわずに受け流して、相手に反撃する剣術だ、と口で言っても分かり辛いから、実際にやってみた方がいいな。明治、試に俺に打ち込んでみろ」
 明治は戸惑いながらも木刀を覚えたての正眼に構え、隆宗に向かって振り下ろした。
 振り下ろされた木刀が、隆宗の頭を捕えると思った瞬間、隆宗は自分の木刀を頭上に掲げ、刀身を斜めにして、明治の打ち込みを受け流すと、手首をすぐに返して素早く木刀を振り下ろし、明治の頭に直撃する寸前で、ぴたりと寸止めをした。いくら明治が素人とは言え、仮に自分たちが持っているのが本物の刀で、これが実戦だったら確実に死んでいたであろうことは、想像に難くなかった。
「どうだ?何か分かったか?」
 残心を解きながら、隆宗が感想を訊いた。
「はい。打ち込んでお館様の木刀に当たった瞬間、まったく手ごたえなく軌道を逸らされた感じでした」
「うむ。これが水葉流剣術だ。無理に相手と打ち合ったりすれば、いくら刀とは言え刃が欠けたり、下手をすれば折れてしまう。戦場で武器を失うことは、死んだも同然のことだ。この水葉流は、相手の攻撃を受け流すことで、こちらの攻撃を当てる。つまり、後の先の剣というわけだ」
 隆宗は簡単に言うが、素人が相手の攻撃を受け流すのは、かなり難しいことであり、実際明治も、何度も挑戦しているがうまくいかなかった。
「明治。戦いの最中に目を瞑っていたらやられてしまうぞ。しっかりと相手を見ろ!」
「そんなこと言われても…、ひっ!」
 隆宗に攻撃を当てるつもりはなくても、隆宗自身から伝わってくる気迫に、明治は委縮してしまい、隆宗と対峙して、木刀を振り下ろされるたびに目を瞑ってしまっていた。
 隆宗は軽く嘆息すると、しばらく何かを考えた後、明治に木刀を片づけるように言った。
 突然のことでよくわかっていない様子の明治に、隆宗は自分の考えを伝えた。
「どうやら、明治。お前は戦闘に慣れていないようだな。だから、相手が攻撃してくる瞬間にどうしても目を瞑ってしまうんだ」
「…はい」
 自分の欠点を指摘されて、明治は凹んでしまう。隆宗は、そんな明治の肩を優しく叩くと、明治を安心させるように、優しく微笑んだ。
「そんなにしょげることはない。まずは、どんな時でも相手を見る訓練をしよう」
 そういうと、隆宗は明治を道場の中央に立たせ、自分は木刀を正眼に構えた。
「いいか、明治。これから俺がお前に寸止めで攻撃をする」
 突然の宣言に、狼狽する明治を見て、隆宗は苦笑しながら、
「安心しろ。攻撃は絶対に当てない。…そうだな、賭けをしよう」
「賭け…ですか?」
「ああ、もし俺が誤ってお前に攻撃を当ててしまったら、俺はお前に何でも一つ好きなものをやろう」
「なんでも…ですか?本当に?」
「ああ、なんでもいいぞ。新しい鎧や刀でも、馬でも、この城でもいい。何だったら幸をやろうか?」
「は?え?い、いや、あの、その…」
 隆宗のにやりと意地悪く笑いながらの提案に、明治は慌てふためいた。その様子を見て、隆宗が豪快に笑った。
「はっはっは。冗談だ。冗談」
 からかわれて慌てふためいた明治が、膨れながら抗議するのを隆宗は軽く受け流す。
「ともかくだ。万が一俺が寸止めに失敗したら何かくれてやる。そして、お前が目を瞑ってしまったらだが…」
「ぼ、僕もかけるんですか!?」
「当然じゃないか。じゃないと賭けにならないだろう?」
「う、それは、まあ、そうですけど…」
「そうだな。お前が目を瞑ってしまったら、俺の言うことを何でも一つ聞くというのはどうだ?」
「それっていつもと違うんですか?」
 普段から隆宗の命令や依頼は聞いている明治が、当然の疑問を返してくる。
 それに対して、隆宗はにやりと意地の悪い笑みを浮かべるだけだった。
「その笑いが気になりますけど、とりあえず分かりました。その賭け、乗ります」
「うむ。素直でよろしい。それじゃあ、始めるぞ!」
 明治が納得したことで、隆宗は改めて木刀を正眼に構えた。そして、集中するように軽く目を瞑り、深い呼吸をした後、
「ハッ!」
 鋭く息を吐きながら、裂帛の気合を込めて、木刀を振り下ろした。
勢いよく振り下ろされた木刀が、鋭く空を切り裂きながら自分の頭に迫ってくるのを、明治は必死になって見つめた。
そして、ぴたりと自分の頭の数センチ上で止められた木刀を見て、安堵のため息を吐いた。
「よく我慢したな」
 木刀を引きながら、隆宗が感心した声を出した。
 明治は顔を引きつらせながら、力なく笑った。
「よし。その調子で続けるぞ」
 再び一足一刀の間合いに戻った隆宗は、次の打ち込みのために、再び深い集中に入った。
 しかしその時、突然「ガラッ」と道場の扉が開けられたと思ったら、幸がひょっこりと顔を出した。
 集中を切らされた隆宗が、不満げな声で訊いた。
「どうしたのだ、幸?」
 幸は、おずおずと隆宗に近づくと、こっそりと耳打ちをした。
「お館様、例の商人が来ました」
「おお、そうか!」
 幸の報告を聞いた隆宗は破顔した。そして、
「明治。すまないが急用ができた。今日の訓練はここまでにしよう」
 一方的に明治に訓練の中止を言い渡すと、自分は幸を伴って、すたすたと道場から立ち去ってしまった。
 一人取り残された明治は、頭に疑問符を浮かべていたが、やがて諦めたようにため息を吐くと木刀を手に、一人素振りを始めたのだった。
 一方隆宗は、商人とあるものについて、幸や鉦定、光姫を交えて打ち合わせをしていた。普段隆宗が雑務をする、他の部屋に比べて狭く、戸や窓をすべて閉ざして、蝋燭を一本中央に置いただけの、薄暗い部屋に大人が四人、額を突き合わせて、こそこそと話している光景は、端から見ていて怪しいことこの上ない。
「それで、山辺様。今回のご入用のものですが…、新品の鎧一式と、刀、陣羽織でよろしかったでしょうか?」
 商人の言葉に、隆宗は頷いた。
「しかし、なんでまた戦に必要なものを一式揃えるんです?」
 商人のもっともな疑問に、何故か幸が誇らしげに答えた。
「今回の注文は、アキ君の物なんです」
「アキ君?」
「新しい俺の部下だ。つい最近、家に来たやつでな」
 隆宗の補足でようやく得心がいった商人は、気持ちを切り替えたのか、商人らしい顔つきになった。
「それでは、鎧の仕様なんですが、どうしますか?」
「ふむ。全体的な形は、あまり複雑にはしない方がいいだろう。色は…どうする?」
 隆宗の問いかけに、幸が手を挙げて、
「私、色は優しい色がいいと思います」
「そうね。明治さんらしい色には、優しい色が似合うわね」
「確かにその通りだ」
 幸の意見に、光姫と隆宗も賛同するが、商人は困った顔をしながら三人に問いかけた。
「あのう。それで、具体的にどんな色でしょうか?」
 具体的にどの色にするのか決めていなかった三人は、しばらく考え込んでいたが、やがて、各々希望する色が決まったらしく、商人に向かって一斉に希望を話した。
「私は、薄い青がいいと思います!」
「俺は、柔らかい感じの橙(だいだい)だ」
「私は、桜色がいいわ」
 三人はそれぞれの意見を聞いて、お互いに顔を見合すと、自分の意見を主張し始めた。
「絶対、薄い青が似合います!」
「いいや!橙だな」
「桜色がピッタリじゃないですか」
「薄い青!」
「橙!」
「桜色!」
 飢えた猛獣のような唸り声をあげながら、三人が睨み合いを始めたので、商人が慌てて仲裁に入った。
「ま、まあ、お三方。落ち着いてください!後日、それぞれの色の布と、鎧を持ってきますから、それで合わせてみればいいじゃないですか!」
 商人の説得に応じた三人は、不承不承といった感じではあるが、どうにか落ち着きを取り戻した。
 商人は、場を仕切りなおすように咳払いをすると、話を元に戻した。
「鎧の色はまた後日ということでいいとして、寸法はどのくらいです?」
 商人の問いかけに、隆宗が何故か自慢げに胸を逸らしながら、懐から一枚の紙を取り出した。
「そうだな。明治の身長は、六尺と二寸(約百六十六センチ)だ。体重は、十三貫(約四十八・五キロ)だ。袖幅は、大体二尺と七寸といった感じだな」
「いつの間にそんなの測ったんですか?」
 幸が少し顔を引きつらせながら訊くと、隆宗は不敵に笑いながら、
「ふっふっふ。あいつが寝ている最中にこっそりとな」
「「うわぁ」」
 隆宗のあまりにアレな発言に、光姫と幸は隆宗から離れようと後ずさりして、蔑んだ視線を向けた。
 商人も若干引きながら、話を続けた。
「わ、分かりました。鎧と陣羽織の寸法はその大きさで作らせていただきます。それで、刀の方なんですが、ご要望はありますか?」
 隆宗は、光姫と幸に顔を向けるが、刀に詳しくない二人は軽く首を振った。つまりは、任せるということだろうと判断した隆宗は、しばし考え込んだ後、
「できれば、直刃(すぐは)がいいな。柄はできるだけ滑りにくいものを頼む。鞘や鍔は、そちらに任せよう」
 商人は隆宗の要望をさらさらと紙に書き出していく。
「長さと重さはどうしますか?」
「平均的なもので構わないだろう。下手に弄ったものだと、使いづらいからな」
「分かりました。その他に何かご入用などはありませんか?」
「俺は大丈夫だ。光と幸は?」
 隆宗の問いに、光姫は首を振り、幸は少し考えた後、
「そういえば、おさねさんが、調味料がもう少しでなくなるって言ってたような…」
「それでは、後程、お尋ねします」
 商人は、そういうと注文を書き出した紙を懐に仕舞い、戸を開けた。
 突然入り込んだ光に、三人が目を細めていると、商人は、三人にぺこりと頭を下げた。
「それでは、本日はこれにて失礼させていただきます。また何かご入用がありましたら、いつでもお申し付けください」
「うむ。よろしく頼む」
 そうして商人が去るのを見送った隆宗は、くるりと二人を振り返ると、
「いいか。今回のことはあくまで、明治には秘密だ。くれぐれも悟られるなよ」
「もちろんですわ」
「分かっています」
 光姫と幸が同時に頷いたところで、その日の打ち合わせは終了した。